当教室では、教育版LEGOの最新ロボット、SPIKEシリーズを採用しています。

  • LEGO は、デンマーク語で「leg godt(よく遊べ)」という言葉を略したものです。

「LEGOは子供のおもちゃ」と思ってはいけません。LEGOのロボットには、産業革命以来、人類が積み上げてきた「メカニズムの歴史」が詰まっています。

歯車(ギア)、リンク機構、空気圧、そしてサスペンション。本物の自動車や産業用ロボットと同じ物理法則が、机の上で精確に再現されます。驚くほどの拡張性と奥深さが秘められています。

一般的なLEGOは、ブロックを積み上げて形を作りますが、ロボット制御で使うLEGO Technic(テクニック)は、穴の開いたビーム(リフトアーム)とピン(ペグ)を組み合わせて「構造」を作ります。どう組めば歪まないか、どこを補強すれば軽くできるか。実際の建築や機械設計にも通じる、トラス構造やフレーム構造といった「構造力学」を、手を動かしながら直感的に体得できます。

  • 一般的なブロックは、LEGO System(システム)と呼ばれます。
LEGO Technic

LEGOのパーツは、マイクロメートル単位の極めて高い精度で作られています。安価な教材キットで起こりがちな「部品のガタつき」や「摩擦の違い」などのハードウェアトラブルが少ないです。ギアのかみ合わせも計算通りに動くため、純粋な「機構設計」や「プログラミング」の試行錯誤に集中することができます。

ネジも接着剤も使いません。アイデアを思いついたら数秒で形にでき、失敗したら一瞬で分解できます。実際の開発現場でも重視される「ラピッド・プロトタイピング(迅速な試作)」が、LEGOなら瞬時に可能です。この「試作スピード」の速さが、圧倒的な試行錯誤の回数を生み出し、深い理解へと繋がります。

ただモーターを回すだけではありません。回転運動を直線運動に変えたり、力を空気で伝えたり。機械工学の教科書に出てくる「機構」が詰まっています。

  • 基本ギア・動力伝達
    8枚歯から40枚歯まで、多様なギアを組み合わせて「ギア比」を計算します。「スピードを上げるか、パワー(トルク)を上げるか」。エンジニアリングの基本にして最大の課題である「トレードオフ」の関係を、実践をもって学びます。下表では、ギアの半径をレゴの単位であるスタッドで示しています。1スタッドは8mm。レゴのギアは「半径 = 歯数 ÷ 16」で設計されています。

    歯数812162024283640
    半径0.50.7511.251.51.752.252.5
    外観
  • リンク機構・クランク
    モーターの回転を「歩く」「掴む」といった複雑な動きに変換します。生物のような滑らかな曲線の動きを創り出します。
  • ベルトドライブ・プーリー
    離れた場所に動力を伝えたり、あえて「滑る」ことで過度な負荷からモーターを守るクラッチの役割を学んだりします。
  • リニアアクチュエータ・空気圧シリンダー
    ショベルカー、ブルドーザー、ホイールローダーといった重機のように、重いアームを持ち上げる強力な「直線運動」を生み出します。
    リニアアクチュエータでは、モーターで内部のねじを回すことで、直線運動を行います。一方、空気圧シリンダーでは、クランクで回したポンプからの空気圧を動力に、直線運動を行います。
  • ラック&ピニオン
    回転するギア(ピニオン)と棒状のギア(ラック)を組み合わせ、回転運動を直線運動に変換します。フォークリフトの昇降や、プリンターのようにペンを左右に動かして図形を描く精密な制御を学びます。

ロボットでは足回りの設計は戦略の要です。当教室では、「ドライブベース(対向2輪)」と「ステアリング」という2つの基本形を中心に、ミッションや環境に合わせて最適な機構を構築します。

  • ドライブベース(対向2輪)
    標準的な移動ロボットです。ロボット掃除機もこのタイプです。左右のモーターを独立制御し、その場で回る「超信地旋回」が可能です。足回りのパーツを変えることで、様々な環境に対応します。
    1. タイヤ型
      小回りが利き、スピードが出せる標準タイプ。
    2. クローラー型(タンク)
      接地面積が広い無限軌道タイプ。制御理論はタイヤ型と同じですが、段差や凸凹道などの悪路走破性に優れています。
  • ステアリングカー(アッカーマン・ジャントー)
    実際の自動車と同じように、前輪の角度を変えて曲がります。ドライブベースのようにその場での旋回ができないため、内輪差を計算したり、切り返し(車庫入れ)を行ったりと、幾何学的な経路計画が必要になります。
  • 全方位移動(オムニホイール)
    特殊なローラーが付いたタイヤを使用します。車体の向きを変えずに「真横」や「斜め」に並進移動が可能なため、移動時間を短縮できます。上記の2系統とは異なり、ベクトル制御を用いた高度な数学的アプローチに挑戦します。

これらのロボットではタイヤ・クローラーの選定が重要になります。ドライブホイール(スプロケット)直径によるスピード・パワー変化だけでなく、幅や断面形状(点・線・面接触)による摩擦の違いも学びます。旋回性能を重視するか、グリップ力を重視するか、エンジニアリング視点で最適なタイヤを選定します。当教室は通常のキットに入っていない、様々な種類のタイヤ・ベルトを用意していますので、様々な条件に合わせた選定が可能です。

クルマの基本構造を再現することで、機械が動く仕組みを深く理解します。

  • ステアリングシステム
    リンク機構を使い、ステアリングを変える仕組み(アッカーマン・ジャントー)を再現。「なぜクルマはスムーズに曲がれるのか?」を理解します。
  • トランスミッション(変速機)
    クラッチギアやドライビングリングを使い、走行中にギアを切り替えます。「坂道を登るパワー」と「直線のスピード」を状況に合わせて変える、変速機構の仕組みを学びます。下図では、ロータリーキャッチ(オレンジ)を回転させて、ドライビングリング(グレー)を左右どちらかのクラッチギア(青・赤)につなげて、変速しています。
  • デファレンシャル・ギア(差動装置)
    カーブを曲がる際、内側と外側のタイヤの回転差を吸収する「デフ」の仕組みを再現。ステアリングと合わせてクルマの旋回原理を学びます。
  • サスペンションシステム
    バネを使って路面の衝撃を吸収したり、車体の傾きを制御したりします。質量の移動や振動といった物理現象を体験します。

LEGOのSPIKEシリーズでは、目的に合わせて2つのハブ(コンピューター)、3つのモーター、3つのセンサーを使い分けます。ハブには「加速度(G)」と「角速度」を測るジャイロセンサー、モーターには「回転角」を測る角度センサーが内蔵されています。

SPIKEシリーズの簡単なSPEC一覧を、下表に示します。

  • ハブのポート数は、モーターとセンサーを接続できる数を表しています。
  • ハブには、Bluetooth による通信機能が搭載されており、PCだけでなくコントローラーとの接続やハブ同士の通信が可能です。ただし、Pybriks を使用している場合に限ります。
  • ハブはマイクロUSB により、PCとの接続や充電を行います。
  • ハブはどちらも32MB メモリを搭載しているため、ハブにプログラムをダウンロードすれば、ロボット単体で動かすことができます。ただし、スモールハブは Pybriks を使用している場合に限ります。
  • モーターの性能は、無負荷時の速度と停動トルクで記載しています。
  • センサーに記載されているライトマトリクスは、センサーでなくディスプレイです。ディスプレイの無いスモールハブのために追加されたブロックです。

ハブ役割と外観ポート数内蔵
センサー
ディスプレイスピーカー
スモールハブ
(ベーシック)
コンパクト
ロボット用
2ポート6軸
ジャイロ
センサー
なしなし
ラージハブ
(プライム)
高機能ロボット用
6ポート5×5マトリクス
(ハブ本体)
12ビット16 kHz
(モノラル)

モーター外観性能内蔵
センサー
特徴
S モータースピード:★☆☆
(110 rpm)
パワー :★☆☆
(5 Ncm)
回転角度
センサー
力が弱くても
できる動きに。
コンパクトで
使いやすい。
M モータースピード:★★★
(185 rpm)
パワー :★★☆
(18 Ncm)
大きいロボットの
タイヤを回す。
少し力の必要な
アームを動かす。
L モータースピード:★★☆
(175 rpm)
パワー :★★★
(25 Ncm)
重機のアームや
移動機構等の力が
必要な部分に。

センサー外観役割使用例
カラー
センサー
色や反射率を
調べる
白黒の境界線を走る
「ライントレース」。
黒や赤まで進む。
色による仕分け。
距離
センサー
障害物との
距離を測る
壁に近づいたら止まる。
迷路で左右のどちらが
曲がり角か調べる。
壁と距離を保ちつつ走る。
フォース
センサー
力の大きさを
測る
ON/OFFのスイッチ。
壁にぶつかったら止まる。
ハブ内蔵
6軸ジャイロ
センサー
XYZ方向の加速度と
角速度の測定
ロボットの直進や
回転のズレをなくす。
ロボットの傾きや
揺れを検知する。
コントローラー。
モーター内蔵
角度センサー
絶対・相対
回転角の測定
移動距離の測定。
ダイヤル入力。
負荷を検知して止まる。
アーム初期位置合わせ。
ライト
マトリクス
3×3
マトリクスの
ライト
9マスを様々な色に光らせて
ロボットの状態を知らせる。

ここで挙げた以外にも、様々なメカニズムやブロックがあり、当教室のカリキュラムである「ブラックボックス」の学習(物理 × 論理)に直結しています。なぜその機構が必要なのか?物理法則と照らし合わせながら、その意味を解き明かしていきます。

ブラックボックスを詳しく

実は、最先端の研究開発現場でもLEGOは活躍しています。

  • Googleのサーバーは、LEGO製だった
    Googleの創業時、最初のサーバーラックがLEGOブロックで作られていました。「必要な形をすぐに作れて、放熱性も高く、拡張しやすい」。このエンジニアリングの基本である「ラピッド・プロトタイピング(迅速な試作)」に、LEGOは最適だったのです。
  • 科学実験を変える「Technic」の精度
    さらに高度な実験現場では、「LEGO Technic」が使われています。例えば、原子を見るための「原子間力顕微鏡」や、血液検査に使う「遠心分離機」。これらは通常、数百万〜数千万円する高価な機器ですが、Technicの「精密なギア機構」と「高い剛性」を利用して、同等の機能を持つ実験装置を自作する研究が、世界中の大学で行われています。
  • 驚きの「金型精度」
    なぜそんな精密なことができるのか。それはLEGOを作る「金型」の精度が0.005mm(5ミクロン)という驚異的な精確さで作られていると言われています。この品質管理があるからこそ、部品のガタつきがなく、計算通りのロボットを作ることができるのです。