ここでは「ヒナタ屋の想い」のページより、少しだけ深い話を書いています。

これからの時代は「人間 (意志)」、「AI (知能)」、「ロボット (肉体)」の3者が共存し、役割分担をする世界になります。その中で人間は何をすべきか?という点について「エンジニアリング」を鍵にして、当教室の考えをまとめています。

ご興味のある方、お時間のある方は、ご一読いただければ幸いです。

2025年12月26日 記

モノづくりを含む「あらゆる課題解決」には、「想い」を「価値」に変えるサイクルが必要となります。そこで当教室では、独自に「Vision-Led Value Cycle」と名付けた5つのステップを「お子様の教育」と「教室の運営方針」の軸に据えています。日本語にすると「想いが主導する価値創造のサイクル」で、次のように表すことができます。

  • What(Vision 想い・課題)
    始点となるアイデアが生まれる
  • How(Options 方法・計算)
    実現する選択肢を導き出す
  • Decide(Choice 決断・意思決定)
    責任をもって方法を決める
  • Do(Action 実行・つくる)
    実際にカタチにする
  • Value(Happiness 価値・幸福)
    人や社会に価値をもたらす

このサイクルでは「What」で想いを描き「How」で実現のための無数の選択肢を導き出します。

重要なのが次の「Decide」です。出された選択肢の中から、自分の「美意識や価値観」(Internal)、そして「社会的道義や法的責任」(External)と照らし合わせ、「これが正解だ」と責任を持って決断する。そうして選んだ道を「Do」でカタチにすることで、初めて人や社会に響く価値「Value」が生まれます。

しかし、そこで終わりではありません。生み出した「Value(価値)」とそこから得られた「経験」は、次の「What(想い)」をより高い視座へと引き上げます。このサイクルを繰り返すことで、上へ上へと伸びる成長の螺旋(スパイラル)を描いていくのです。

この「What(想い)」を、実際の「Value(価値)」として届けるための架け橋となるのが、真ん中の「How Decide Do」のサイクルです。「モノづくり」の視点では、ここがエンジニアリング(アイデアを形にする力)となります。

この能力が高まれば高まるほど、最初の「What」はより高解像度(鮮明)になり、最終的な「Value」もより高品質なものへと磨き上げられます。

では、なぜ真ん中のエンジニアリングを「学んだ・実践した」経験があると、その手前の「What」まで鮮明になるのでしょうか?

  • 経験のない人:「Vision」は「空想」に近くなります。実現への道筋が見えないため、「What」の定義も曖昧なままです。
  • 経験のある人: 脳内に「試行錯誤の蓄積」があるため、想像した瞬間に「What」が「物理的に実現可能な設計図」の入力として、高解像度で見えています。結果として、AI への的確な指示出しや、その後の「Decide(決断)」の精度も格段に上がります。

つまり経験のある人は、成長の螺旋(スパイラル)で大きく伸びていくことが出来るのです。

さらに、このサイクルの担い手は時代とともに変化します。現在と未来の役割分担を整理しました。

概念役割担当
現在未来
InputWhatVision 人間
Engi
neer
ing
HowOptions 人間
AI
AI
DecideChoice 人間
DoAction 人間
AI
ロボ
AI
ロボ
OutputValueHappi
ness
人間

ご覧の通り、未来においてエンジニアリングの「How」や「Do」は AI・ロボットのみに置き換わっていきます。しかし、エンジニアリングの中核である「Decide(決断)」だけは、最後まで人間の責任として残ります。技術がいかに進歩しようとも、最後に決めるのは人間です。だからこそ、エンジニアリングを学び、AI にはできない意志ある決断ができるリーダーが必要なのです。

当教室の授業では、あえて AI を使わず、自分の頭だけで考えて実践します。はじめから AI に頼ると、その場の答えを出すのは速くなりますが、思考プロセスがブラックボックス化し、「正解を待つだけのオペレーター」になってしまう恐れがあるからです。

自分の頭で悩み、試行錯誤して身につけたエンジニアリング的基礎体力があって初めて、AI という強力な道具を制御できます。「AI に使われない人間」を育てるために、当教室はこの地道なプロセスを何より大切にしています。

さらに「AI 時代にあえてその地道なエンジニアリングを学ぶ」理由を2つに切り分けてみましょう。「実践的な理由(現在)」と「本質的な理由(未来)」です。

  • 現在の理由
    今はまだ AI やロボットが完璧ではないため、人間が「手」を動かす必要があります。人間が AI と共に「How」を考え、ロボットと共に「Do」する能力が必要です。
  • 未来の理由
    将来、実務(「How」や「Do」)は AI やロボットが代行してくれるでしょう。しかし、ブラックボックスの中身を知っているからこそ、高解像度な「What(課題設定)」を AI に渡すことや、AI の嘘(ハルシネーション)を見抜くことができます。つまり、AI という最高の部下を使いこなすための「共通言語」として、エンジニアリングが必要なのです。

未来のリーダーに必要なのは、自分で作る力以上に、本質(仕組み)を理解して指揮する力です。

ここでいう「本質(仕組み)」とは、AI の仕組みのことだけではありません。ロボットであれば「重力や摩擦」を、料理であれば「食材や料理の仕方」を知らなければ、どれだけ優秀な AI がいても的確な「What」(指示、レシピ)は渡せないのです。

さらに、エンジニアリングを深く極めると、脳内に「課題解決の黄金パターン(回路)」が出来上がります。一度作られたその回路は、スポーツや芸術、ビジネスなど、別の分野に取り組む時にも応用できる、一生モノの基盤になります。

この「一生モノの基盤」を築く上で、さけて通れないのがエンジニアリングの2つの流儀です。

モノづくりの世界には、目的によって使い分けるべき異なるアプローチが存在します。 どちらが優れているかではなく、状況に応じて「今、どちらを使うべきか?」を見極める目を持つことが重要です。

アジャイル
(素早い)
ウォーター
フォール(滝)
得意
分野
正解が
分からない
モノづくり
正解が
分かっている
モノづくり
試作、発明、ソフト開発建築、量産、インフラ
目的1 を生み出す100に拡大する
まだ見ぬ価値を創る効率よく正確に造る
増幅率∞(無限大)
個人の創造性
1(またはN倍)
組織の生産性
手順柔軟・循環(Cycle)直線・計画(Linear)
作りながら考え
手順を入れ替えてもOK
計画 設計 製造
How Decide Do を高速回転How Decide Do の順番を厳守
身に
つく力
想像力
論理的思考力
知識、胆力
責任感

なぜ、アプローチの違いによって、これほど対照的な力が身につくのでしょうか。それは「失敗」に対する考え方が異なるからです。

  • アジャイル(想像力・論理的思考力)
    ここでは失敗は「データ」です。コストが低く、何度でもやり直せるため、「試行錯誤」を恐れません。「こうしたらどうなる?」「ダメだったから次はこうしよう」という高速の思考サイクルが、未知のものを生み出す想像力と、因果関係を解き明かす論理的思考力を育てます。
  • ウォーターフォール(知識・胆力・責任感)
    ここでは「失敗を未然に防ぐ準備」を学びます。後戻りができない緊張感があるからこそ、事前のリサーチや基礎知識を重んじるようになります。また自分の決断に責任を持ち、最後まで形にするプロセスを通じて、強い胆力と責任感が養われます。

当教室では、これからの時代に特に必要となるアジャイル型のアプローチを重視しています。
理由は次の二つです。

  • 時代のスピードと課題の緊急性(External)
    技術の進歩は速く、SNS の浸透により流行のサイクルも短くなりました。また、気候変動やエネルギー問題など、世界には喫緊の課題が山積みです。じっくり計画を立てるよりも「まず作り、すぐ試し、修正する」というスピード感が、現代の課題解決には不可欠だからです。
  • 圧倒的な経験値の獲得(Internal)
    教育的視点です。失敗を許容し、高速で試行錯誤を繰り返すアジャイル型は、ウォーターフォールに比べて短時間で圧倒的な数の「失敗と成功」を経験できます。これが子供たちの成長の原動力になります。

アジャイル型を重視するからと言って、ウォーターフォール(WF)型を軽視するものではありません。この2つを適切な順番で組み合わせることで、お子様の能力を最大化する「増幅回路」のような授業づくりが必要だと考えています。

1. 入力(Input)最初のWF

  • 役割: 外部(先生やテキスト)から、正しい知識や基礎を取り込む段階です。
  • 効果: ここでのゲイン(増幅率)は「1」です。入力された「1」の知識を、まずは「1」として正確に受け取ります。基礎知識という土台がなければ、その後の応用は効きません。
  • ウォーターフォールは、工場のように多人数で連携すれば「1を100(N倍)」にできますが、個人の「学び」という入力段階においては、教えを正確にコピーする「ゲイン1」の忠実さが求められます

2. 増幅(Gain)あいだのアジャイル

  • 役割: 取り込んだ知識を使い、自由に試行錯誤を繰り返す段階です。
  • 効果: ここがゲイン(増幅率)が「無限大」になる瞬間です。失敗と成功を高速で繰り返すことで、入力された「1」の知識が、本人の気づきによって「10」にも「100」にも化けます。「0から1を生み出す」創造性は、この熱量の高いプロセスによって飛躍的に高まります。

3. 出力(Output)最後のWF

  • 役割: 増幅されたアイデアを、一つの「形(作品)」として確定させ、世に出す段階です。
  • 効果: ここで求められるのは「責任(胆力)」です。アジャイルの結果を「これが正解だ」と一つに絞り込み、他者の評価にさらす。この「出力に伴う責任」を引き受ける覚悟が、AIには代替できない「決断する力」を育てます。

これを日本古来の武道や芸道(茶道・書道など)の修行プロセスである「守破離(しゅはり)」と比較すると、普遍的な成長のカタチであることが分かります。

  • = 入力のWF
    まずは先人の知恵や「型」を徹底的に守り、基礎を身につける段階。
  • = 増幅のアジャイル
    身につけた型をあえて破り、自分なりの試行錯誤を繰り返す段階。
  • = 出力のWF
    型から離れ、一人の自立したエンジニアとして独自の価値を創り出し、社会に責任ある成果を届ける段階。

知識(入力WF)は全ての「土台」ですが、それだけでは活用されません。試行錯誤(アジャイル)は「発見の源」ですが、それだけでは形になりません。最後に責任を持って出力(出力WF)という「決断(Decide)」を下すことで、初めて社会に響く価値(Value)となります。

ただ、お子様の成長段階や個性に合わせ、アジャイルな楽しさで自信(自己肯定感)を蓄えることを優先すべき場合があります。WFで自分の考えを外に出すには大きな心のエネルギーが必要となるため、お子様が「これなら出せる」と思えるタイミングを待つ。当教室ではお一人おひとりの心の準備に合わせて、このサイクルの深さを調整しています。

当教室のコンセプトである「つくる、動かす、考える」は、まさにアジャイルの実践です。これは「エンジニアリング(アイデアを形にする力)」である「How、Decide、Do」を、お子様に分かりやすいよう言い換えたものです。

当教室では「LEGO®× Pybricks」という柔軟なツールを使い、ラピッドプロトタイピング(迅速な試作)を行いながら、エンジニアリングを学びます。

最初の「つくる」には、段階に合わせて3つの意味があります。

  • 作る (Make)
    アジャイルに手を動かして試すこと。
  • 創る (Create)
    アジャイルな試行錯誤の末に、独自の価値を生むこと。
  • 造る (Build)
    ウォーターフォールの確かな技術で、社会実装すること。

それぞれの漢字の構成要素から意味と役割をまとめてみました。当教室の考える意味ですので、本来の漢字の成り立ちと異なるかもしれません。ご承知おきください。

構成要素意味役割
人+
乍(たちまち)
人がすぐに行動を起こす失敗を恐れず試行錯誤を繰り返す
倉+
刂(刀)
材料を切り開いて新しい形(倉)にする新しい独自の正解を見つける
⻌(道)+
告(目標)
定められた目標に向かって一歩ずつ進める正解が決まったものを効率よく正確に量産する

お子様たちには、まずは「作る」から始め、やがて未来を「創る」力を身に付け、それを次世代に「造る」技術として伝えていってほしいと考えています。

次の「動かす」には、2つの重要な意味があります。

  • 物理法則との対話(External)
    頭の中の計算が、現実の重力や摩擦と合っているか?ロボットを動かして「現実の答え」を検証します。
  • 脳への刺激(Internal)
    「手考足思(しゅこうそくし)」という言葉があるように、積極的に手を動かすことで脳が刺激され、次のアイデアが湧いてきます。

手を止めずに検証を行い、現実からフィードバックを得続ける。これが当教室が大切にする「アジャイルな姿勢」です。

では「つくる」「動かす」を行っている時、お子様たちの脳の中では何が起きているのでしょうか?
もちろん手を動かしている間も、常に「考える」ことを続けています。「どうすれば動くか?(論理)」を考え、試行錯誤しています。

しかし、それだけではありません。ふと手が止まり、ボーッとしている時間。一見サボっているように見えるその瞬間も、実は脳の裏側で別の回路が働き、「考える」ことを続けているのです。

創造的なアイデアは、この「意識」と「無意識」を行き来することで生まれます。これを創造的思考のプロセスである思考の4段階に当てはめてみましょう。すると「ボーッとしている時間」は無意識的な孵化の段階であり、その後に直感的な啓示である「ひらめき」が生まれることが分かります。


教室での
行動
考えるのモード脳の中
準備つくる意識論理的知識を総動員し論理的に情報をインプット
孵化余白無意識拡散的ボーッとしている間に脳の裏側で情報を整理
啓示気づき直感的論理の積み上げではなく瞬発的に答えが出る
検証動かす意識批判的その閃きが現実で通用するか冷静に判断

この「ひらめき(啓示)」を得るためにこそ、アジャイル型が適しています。ウォーターフォール型が一方通行の、失敗できない「一度きりの正解」を目指すのに対し、アジャイル型は「つくる・動かす・考える」を高速で繰り返します。つまり、試行錯誤の数だけ「孵化」と「ひらめき」の機会が訪れるのです。

ここで「How、Decide、Do」と「つくる、動かす、考える」の関係を整理すると、次のようになります。

アジャイル
(素早い)
ウォーター
フォール(滝)
サイ
クル
高速回転
順番は自由
一方通行
順番を厳守
How
Decide
Do
How Decide DoHow Decide Do
つくる
動かす
考える
つくる 動かす 考える考える つくる 動かす
つくる
の意味
作る
創る
造る
動かす
の意味
物理と対話
手考足思
検証
テスト
考える
の意味
思考の
4段階
計画
設計

失敗を恐れず回数を重ねることが、優れたアイデアへの近道になります。

この思考の4段階は、まだ人間が AI を凌駕できる領域です。現在の AI は現実世界が苦手で、物理的にありえない形を作ってしまうため、0からの創造が不得意です。

ここで少し、技術的な未来予測をさせてください。昨今言われている「AI があれば人間は学ばなくて良い」という考え方に対する、当教室なりの回答でもあります。

  • 今の AI(ビッグデータ型)
    現在の主流であるビッグデータ型の AI は、膨大なデータの中から「点と点を結んで線にする(統計・確率)」のが得意です。人間が
    「a b」「c d」……
    というデータ(問題 答え)を山のよう(ビッグデータ)に教え込むことで、AI は統計的に
    「だったら、次は a d になる確率が高い」
    という答えを一瞬で導き出します。
    この情報処理のスピードは、人間には到底真似できません。しかし、そこに「物理法則(リアリティ)」はありません。AI は「データ上そうなる確率が高い」と答えているだけで、モノを落とした時の「重力」や、床の材質による「摩擦」を肌感覚として理解しているわけではないのです。
    だから時として、平気で「物理的にありえない設計図」を描いてしまったりします。
  • 次世代の AI の到来
    次世代の AI では、自ら出した結果に論理的な自己検証を繰り返してハルシネーションを劇的に減らす「推論モデル」や、重力や摩擦などの物理法則まで計算に入れて現実世界を理解する「世界モデル」が登場するでしょう。どちらも高速で大規模に処理されるため「How(方法)」や「Do(実行)」の精度が飛躍的に上がります。
    また、人間が自身の「経験則(勘)」を頼りに判断している間に、AIは物理法則に基づいた何億通りものシミュレーションを瞬時に完了させてしまうため、 思考の4段階も人間を凌駕する可能性があります。「人間が見たことのない奇妙な形だが物理的には最適」な答えを導き出してくるでしょう。
    さらに複数の AI やロボットが相互にチェック(ダブルチェック、トリプルチェック)し合う時代も来るはずです。
    ここに一つ懸念があるとすれば、それだけの計算を行うための「膨大なエネルギー」の問題があります。しかし、それすらも AI が自ら解決策を導き出すことができるでしょう。

そうなれば、人間による「確認作業」すら不要になるかもしれません。それでもなお、人間が中身(論理)を学ぶべき理由があります。

それは、AI が出してきた「正解」に対して、「最終責任」を負うためです。AI は「成功率99.9%」と弾き出せますが「残りの0.1%の失敗が起きた時、誰が責任を取るのか?」という問いには答えられません。

ブラックボックスの中身を知らないと、AI に言われるままにボタンを押すしかありません。しかし、論理や仕組みを理解している人間なら「なぜ0.1%のリスクが残るのか?」、「最悪の場合、どうなるのか?」をエンジニアリング視点で理解した上で、「そのリスクなら許容する(Go)」あるいは「待った(No-Go)」という「Decide(最終決断)」を下せます。

このように、AI が計算も、物理予測も、相互チェックも、人間を遥かに超えた未来。私たち人間に残される役割。それは「作業」としてのチェックではなく、「責任」としての決断です。

  • 「What(想い)」:人間の望むことから始まり
  • 「How(方法)」:AI があらゆるデータを考慮した選択肢を提示し
  • 「Decide(決断)」:その中から、人間が責任を持って決断し
  • 「Do(実行)」:決断された方法で AI・ロボットがカタチをつくり
  • 「Value(価値)」:生まれたモノや世界を、人間が心から美しい、楽しいと感じる。

「想い(始点)」と「決断(責任)」、そして「価値(心の実感)」。これらはどれだけ計算速度が上がっても、シミュレーション結果(数字)には表示されません。人間の中にしか生まれない領域だからです。

そして、この最も重要な「Decide(決断)」を支える根拠こそが、当教室が大事にする「エンジニアリング(仕組みへの理解)」なのです。

中身を知っているからこそ、AI の提案する方法のリスクを正しく評価できます。当教室が育みたいのは、AI という最高の道具を使いこなし、自分の意志と責任で未来への「Decide(決断)」を下せるエンジニアリング力を備えたリーダーです。